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ハーモニー[伊藤計劃]

世界全ての人間が調和(ハーモニー)したなら

伊藤計劃の小説、「ハーモニー」を読んだ。
切っ掛けはなんだったかな。
そう、虐殺器官のコミックだった。
Amazonを徘徊していたら虐殺器官の漫画があり、そこから昔読んだ虐殺器官の小説を思い出した。

伊藤計劃はもう新作をかけない。すでに亡くなてっている。
この人の他の本を読みたいなぁとなんとなく思い、ハーモニーに行き着いた。

何というか、ハーモニーを読んでいると、なんとなく陰鬱な気分になった。
読み進めて行くにつれ、大して重くはない、だがゆるやかに、ゆっくりと、頭上に大きな見えない蓋をされれていくような、そんな気分になる。

伊藤計劃の本の中には、SFによくある派手で夢のあるようなアイテムやマシンやテクノロジーは登場しない。

現実の世界にある、世間を覆う空気。
その空気から特定の成分を抽出し、濃縮する。
その濃縮した成分がもたらす世界を、伊藤計劃の世界観で、言葉で、表現する。

さしずめ伊藤計劃の作品は、現代の空気を材料にした、香水のよう。
ハーモニーは、現実世界からどんな成分を抽出したのか。

隣人の愛、コミュニティーの気遣い、自身の本音を隠し相手を傷つけない世界。
人を傷つけない、自分の体も傷つけない、そのかわりに、自分の思いや感情を抑圧していく。

相手を思いやるのは、素敵だと思う。ただし、それが、自発的に出たものであれば、かな。

あれをやっちゃいけない、これをやっちゃいけない。
SNSでちょっと失言をしようものなら、あるいは言葉がなりずに誤解を生むような発言をしようものなら、自称正義の味方がどこからともなく登場し、その失言をした人間を駆逐する。炎上する。

そして次第に、本音を言わない、言いたいことも言えない社会が生み出される。個々人の感情は抑圧され、だれも傷つけない、平和な世界が生まれるのかもしれない。ハーモニーの世界にように。

読んでいて、なるほど、と思ったのは、意識が消失する理屈。
心の中に葛藤がなく、今何をすべきか明確になったとき、意識は消失する……

雨の降る日に、家の中で読むといいかも。
適度に鬱々としてきて、ね。

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ハーモニー (ハヤカワ文庫JA)
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