書くこと

感情の筋トレ[天狼院書店のスピードライティングでの気づき]

感情を鍛えよう。そう思ったお話。

テレビを見ながら娘が歌い出したので、僕も歌った。
娘が踊り出したので、僕も踊った。

そんな僕を見て、娘が笑った。

そんな娘を見て僕も笑いながら踊った。
手をフリフリ、腰をくねくねさせながら。

「パパキモい?」と、横で見ていた長女。
「真似しないでー!」といきなり怒りだした、踊っていた次女。

「うぇー!?」と大げさに驚く僕。
笑う長女と、不機嫌な次女。

スピードライティング特別講座2回目講義を受けたと、僕は、「感情の筋トレ」をしようと、そう思い立った。
以来、少しばかり、喜怒哀楽を過剰に表現するように心がけている。

人は、子供の頃には喜怒哀楽を表現し、泣いたり怒ったり、友達同士とケンカをしたり。
母親に怒られてはふてくされ、父親に怒られてはビビっていた。
暗闇は怖く、当時二階建てだった自宅の二階に上がることも、夜の暗くなる時間には恐怖を感じていた。

そんな子供の頃の記憶は、本当によく思い出せる。
反面、この10年、20年の記憶は、子供が生まれたとか、そういったビックイベントでもなければ、記憶に残らない出来事ばかりだった。

なぜだろうか。

スピードライティング特別講座。その二回目。
その日は、東京天狼院の店舗で受講をしていた方は、僅かに3人。
あまりの少なさに驚いたものの、三浦先生と会話をすることが出来て、とても得した気分だった。

実は僕は三浦先生に聞きたいことがあった。
講座の合間の休憩時間、タイミングを見計らい、ようやくそれを聴くことが出来た。

三浦先生は一回目の講座の時に、こう言っていた。
何十年も前に考えていたことが、ある日ネタとなって文章になることがあると。

僕は疑問だった。何十年も前のことを、どうやってネタとして引っ張り出してくるのか。
どこかにネタ帳をためているのだろうか。

僕の場合は、思いついたことをiPhoneのメモに記録したり、PCのアプリであるEvernoteに記録をすることが多い。
何か文章を書くときになると、それらのネタ帳を眺め、記憶の奥底に眠っていたものを引っ張り出してくる。

だから三浦先生も、何らかの形でネタ帳を持っているのではないか。
僕はそう考えていた。

けれど三浦先生の答えは違った。

「メモなどはしていないよ」

そして続けて、こう言った。

「感動するようにしている」

なるほど!
僕は、すごく腑に落ちた。

僕の知り合いで何人か、とても頭のいい人がいた。勉強が出来る、というより、記憶力が良いのだ。
彼らは総じて、感情の起伏が激しかった。

あるときはむちゃくちゃ熱く未来を語り。
あるときは今の仕事に対するいらだちを隠さず吐き出し。
あるときは感情的に人に怒りをぶつける。

そう。感情だ。
心の動きが激しいと、記憶力が高まるのだ。

短期記憶を司る海馬の近くには、感情を作り出すとされている扁桃体がある。
感情によって扁桃体が動き、その影響で海馬が刺激され、記憶に影響を及ぼす。
と言うようなことを、何かの本で読んだことがある。

「感動するようにしている」
そうすることによって、たくさんの記憶が蓄積され、文章を書くときにも多くのネタが湧いてくるのかも知れない。

過去を振り返ってみたときに、記憶の無い人生、なにも思い出せない人生は、きっと悲しい。
普段は前を向いて歩き、その瞬間は感動し、そして時々後ろを振り返ってみたときに、歩んできて道が色とりどりの記憶の花で満たされていたなら、きっと後悔の無い人生だったと、確信を持って言えるはずだ。

だから僕は、大きく感情を動かすようにしようと、そう決めた。
喜怒哀楽の表現はきっと筋肉みたいな物で、それを使わなければ衰えていくばかりなのだと思う。
感情の表現をあまりせず、仕事で辛いことがあっても我慢して抑え、嫌なことを言われても感情を押し殺す。そんな生活をしているほとんどの会社員はきっと、感情の筋力が衰えているのだと思う。

顔の表情筋、ではなく。感情の筋力。たとえば目の間に何か面白い出来事があったときに、瞬間的に笑える、そんな筋力。嫌なことを言われたときに、怒る筋力。悲しいことがあったときに涙を流せる筋力。
瞬間的に感情を動かせる様になることで、扁桃体から海馬が刺激され、これまではたいしたことが無いと思っていた日常の様々なできごとに色が付き、脳に、心に、その瞬間瞬間が刻み込まれ、カラフルな人生を歩むことができるのだ。

そうすればきっと、僕も三浦先生のような面白い文章が、速く書けるようになるのかも知れない。

「ねーねー、パパ見てー」
と、長女が作った絵や工作を見せてくれる。

「おお!すげーじゃん!うまいな!」僕は少し大げさに驚いた。

長女は照れたように笑った。


しのみさんによるイラストACからのイラスト

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